令和5年度 【インテリアデザイン】株式会社トレンド専務取締役 徳田翔太氏講演会 「3Dプリンターの今と未来」
2024年1月18日、3Dプリントを行っている、株式会社トレンド専務取締役の徳田翔太様に、島根大学にお越しいただき講演会が行われました。
島根県松江市に事務所を持ち、「家族の幸せをデザインし、地域のトレンドをつくる」ことを理念に、3Dデータの制作・プリントを行い印刷業界においてご活躍されていらっしゃいます。今回、3Dプリンターを始めたきっかけや、3Dプリンターの「今と未来」についてお話しいただきました。
株式会社トレンド(3Dプリント)の始まりと思い
「父の写真を3Dプリンターで形にしてもらったときの感動を今でも覚えている」。講演の初まりに徳田様はこのように語られ、3Dプリントを始めたきっかけについてお話くださいました。もともと株式会社トレンドが創業される以前に、現在はご逝去された徳田翔太様のお父様が、紙の制作会社を営んでおられました。しかし、当時、ペーパーレス化の時代の流れもあり、3Dプリンターに着目されます。そして冒頭のような徳田様ご自身の実体験も加わり、「思い出のものが形に現れる」ことの感動を、多くの人に届けたいという思いをお話から伺ういました。
3Dプリンターの今
3Dプリンターの市場は右肩上がりであり、特に海外でその傾向が強いようです。3Dプリンターの活用が盛んになってきている現在、どのようなものが制作されているか興味深く聴講していたところ、「食材作成」「包帯」「人間の細胞」「臓器」「車のデザイン」「建築(住宅等)」など、多岐にわたるものが3Dプリンターによって作り出されていました。「食材作成」においては、栄養素の偏りの調整ができることから介護食として期待がされており、さらに宇宙での食の生成にも応用する試みがあるようです。「包帯」や「人間の細胞」・「臓器」については、人の皮膚などを採取し生成し、治癒力の向上や、ウイルスの早期発見などに注目がされています。「建築」では、550万円、2日ほどで住宅ができるということで、施工人員の削減や廃材の少なさが利点となっています。そしてこのことは災害国である日本では仮設住宅に期待を持たれていました。
食材や人体にかかわるものまで3Dプリンタ―によって作ることができると伺い、先進的な活用に非常に驚きを覚えました。3Dプリンターによる建築空間がどのようなものであるか一度体験してみたいところですが、建築を学ぶ身として3Dプリンターによって建築は、低コストや人員の削減等利点も多く、今後人々がその利点だけを求めて建築を作ってしまわないか少々不安になる部分も正直ありました。建築を作ることの労力は、建築家のみならず、施工者、あるいは建築ができるまでの時間さえも計り知れず、時には脅威でありながら、それらがあるがゆえに人々に感動を与え、建築の言葉では表せないエネルギーを感じ取ることができます。そのような建築の魅力も残しつつ、3Dプリンターという先進的な技術の活用と合わさってさらに魅力的な建築を、モノを作っていくことができるのか期待に胸を膨らませる思いです。
3D プリンターの未来
お話の終盤では、様々な活用が試みられている3Dプリンターの「未来」についてお話しいただきました。
デジタル化と物流がいまだ社会における影響が大きい現代において、3Dプリンターの活用が合わさることで今後、「ものが一瞬で届く未来」がやって来るのではないかと徳田様は語られました。
3Dプリントは、「3Dデータ」と「素材」を使用して、「3Dプリンター機」によって作成します。今後、一家に一台「3Dプリンター機」があるような未来になると、「データ」と「素材」があれば、自宅でモノが生成でき、「モノが一瞬で届く未来」が可能になるといいます。素材やデータを持っているとあらゆるものが作ることできる世の中になり、そんな中で、2つを所持しているかがカギになりそうです。
終わりに
講演後、聴講生による様々な質問が飛び交い、最後には(株)トレンド様が作成されてきた実作をお見せいただき、大変有意義な時間を過ごすことができました。
3Dプリンターを活用した未来になると、作り手の価値が減ってしまうのではと不安を抱いていた中で、そうではなく、データの製作者「デザイナー」が今後さらに重要になっていくという見解を述べていただきました。便利で革新的な物事ができる世の中になっても、ものづくりにおいてデザイナーが欠けることはなく、むしろそこに価値が現れてくることを再認識できる機会となり、建築を学ぶ身として大変励みになりました。
今回3Dプリンターを活用して印刷業を営んでいらっしゃる徳田翔太様にご講演をいただき、3Dプリンターの活用について心躍るお話をお聞きすることができました。建築とは異なる分野でありながら、モノづくりにおいて共通点を見出せる部分や、違う視点から建築を考えるきっかけとなりました。
ご多忙のところ、ご講演くださいました徳田様、このような機会を作ってくださいました千代先生、誠にありがとうございました。
(令和5年度 インテリアデザインTA 中道泰子)
【番外編】3Dプリント模型製作 Immeuble 24 N.C. et Appartement :Le Corbusier
今回ご講演いただいた、(株)トレンド様にご協力いただき、ル・コルビジェ設計の、「Immeuble 24 N.C. et Appartment」の最上階を3Dプリンターで製作しました。ル・コルビジェ夫妻が1934年から1965年に亡くなるまで住んでいたアパートメントとアートスタジオです。
3Dデータは、インテリアデザイン受講生の学部3年生が作成してくれました。データ制作には難航する姿もあり、ご講演いただいた中でもあったデータ作成の重要性を身に染みて感じる機会となりました。しかし、出来上がったものの感動はその分一層増してあったようです。