令和5年度 建築設計製図Ⅲ第2課題講評会・講演会(講師:三分一博志先生)

2023年7月13日、三分一博志先生に島根大学にお越しいただき、Ⅰ.建築設計製図Ⅲ第2課題の講評会と、Ⅱ.「地球のディテール」と題した講演会が行われました。

Ⅰ. 講評会 設計製図Ⅲ第2課題


午前9時より、学部3年生建築設計製図Ⅲ第2課題の最終発表の講評会が行われました。

設計課題は、「地域システムの継承」で、直島に新しい建築の仕掛けを提案し持続可能な地域の建築を考えることでした。直島本村地区にある直島ホールと同じ場所を敷地とし、地域の集会所・運動施設・地域図書館をプログラムとしています。

三分一先生によっても本課題の敷地である「直島ホール」をはじめとした、「The Naoshima Plan」などの建築が直島に建てられています。これらは、長い月日をかけた直島の緻密なサーヴェイを通して、そこにしかない直島の土地の記憶を継承し次へとつなぐ建築物になっています。
三分一先生のように現地調査をはじめとした直島にしかないものを通して建築を考えていくことで、直島の大地と直島に住む人々に受け入れてもらえるような建築であることに本課題の重要なポイントがあったように思います。
約一か月という短期間の中で、4~5名のグループによって設計が進められていき、現地調査や模型による環境の実験など試行錯誤しながら最終発表に向けそれぞれのグループが真摯に課題と向き合って取り組んでいました。

発表では、設計したことを簡潔にまとめ、パース等にも建築の魅力が伝わるよう工夫されていました。そして、パワーポイントによる説明後は、模型を用いて再度空間の説明が行われました。

A班 「水に集い、廻る」
直島のかつての生活の中心であった井戸に着目し、水盤を核とした、人の動きの変化や風、景観の変化を取り入れた提案。核である水盤を中心としたまとまった空間構成になっています。

B班 「うつろうハコ、うつろうヒト」
直島で形成されてきた「井戸端会議」と、現在直島の再生力となっている「アート」に着目し、利用者が自分の使い方やに適した場所を見つける集会所の提案。意味や価値をもった点在したハコと特徴的な屋根とハコと屋根の間によって構成される空間が魅力的です。

C班 「直島に座す」
古来より日本人に根付く「座」に着目し「動く素材」と人々の関係を継承する提案。「座」から空間構成にアプローチしていることにより、人々が滞在する空間が必然的にできてくることが想像でき、にぎやかなコミュニティでなく、直島の穏やかな空間が形成されている印象でした。

D班 「積もる緑」
自然環境のつながりに加え、「縁側」という内と外をつなぐ屋敷構成の一部に着目し、島民のコミュニティ形成に結び付く提案。屋敷構成から着想をへたまとまりのある構成には、直島らしさがみうけられ、縁側に加えて舞台の在り方も提案の魅力の一つに思えました。

E班 「余白に彩る」
人々のつながりを生むきっかけとなってきた直島の余白を反映させ、余白が人々を繋げ循環が生まれるような提案。様々な余白と角度のある壁により、空間に雑多さが加わり、城下町であった直島の面影が見えます。

F班 「学び逢い、交ざり逢う。」
子供たちからお年寄りまで幅広い世代の人々が「学び」を深められる集会所の提案。学びの中にも、語り・知る・つくる・体験と意味を分け、それに基づいて建築の構成も分かれているが全体としての関係性は残るようなまとまった構成になっています。

各班の発表の後は、三分一先生、千代先生による講評が、作成した模型の前に集まり行われました。

その後、学生による質問時間が設けられました。「普段調査で持ち歩いているもの」の中には数種類の測定器が含まれており、緻密な現地調査を行う三分一先生ならではの持ち物でした。測定したときどのようなアイディアが湧き出ているのか気になるところです。

「地域システムの継承」という、建築を建てる場所を読み取り、建築で回答するという、これまでの設計課題では考えられていなかった問題を前に、どのような建築がふさわしいか生徒たちは悩んだことと思います。
しかし、初回のエスキスから各班、徐々に設計に磨きをかけ最終発表では悩みながらもそれぞれの回答を導いていました。今回最終発表ではありましたが、今回の講評を経てまた気付けた点が多くあったことと思います。これらを念頭にもう一度、自分たちの設計した建築を見直し、突き詰めていってほしいと思います。

Ⅱ. 講演会 「地球のディテール」


午後からは、「地球のディテール」と題した三分一先生による講演会が行われました。講演会では、多数の建築士会の方々のご参加も見受けられながらの講演となりました。講演会では、三分一先生ご自身の設計した建築を通して、「地球のディテール」となる建築についてお話を伺うことができました。

動く素材
三分一先生は、水や光、風などを動く素材としてとらえています。これらは、温度や気圧等自然環境によって変化し、場所によってそれぞれの持つ特性が異なります。このことを利用して、建築に反映させていることがうかがえました。
特に印象的であったことが、「水の個体にも、雪や樹氷が存在する」ということです。雪や樹氷という自然現象がなぜ存在するかということに疑問をもち、調査し、水分量等の関係により個体にも種類があることを導いています。
着眼点と疑問に対する徹底した調査が、三分一先生のすごさと建築の魅力を引き出していると感じました。そして、調査や分析によってそこに合う動く素材を見つけ出しても、それを建築として成り立たせることは簡単ではないはずですが、三分一先生はどのプロジェクトにおいても必ず実践できていることにもすごさを感じました。

後世へのメッセージ
三分一先生は徹底的なサーヴェイを通して、調査に基づいて土地を読み解き、「こうしたい」ではなく、そこにしかない必然的なものから建築を設計されていることが講演からうかがえました。それゆえにそこでしかできない唯一無二の建築ができあがっていて、そこに住む人々に、そして土地に受け入れられる建築になっているのだと思います。
建てられた建築は場所の歴史や自然環境からつくられ、それが、後世に伝える「ラブレター」と三分一先生はおっしゃっていました。
場所の必然的要素には、土地の記憶が宿り、つくられる建築は土地の記憶を含む後世へのメッセージとなる、非常心に刺さるお話でした。

上記のほかにも、「何を感じることができるのかが建築の役割」「場所の魅力を最大限に引き出す」「風の通る道が人間の通る道になる」「動く素材のために、外壁素材や形(表面積の関係等)を考えていく」など、書ききれないほどの興味深いお話をいただきました。

講演の終わりには、三分一先生の「建築の美学」に関する質問も挙げられていました。

場所を読み取ることから建築を建てている三分一先生の建築には、大地から自然と生成されたような印象を受け、それと同時に繊細でいて力強い、澄んだ美しさをもったものを感じます。建築でいうと日本の神社やお寺のような、そして建築でありながらも庭園にも似たような、美的感覚を覚えます。自然が美しいと思うように、土地の自然環境から読み解かれた三分一先生の建築には、自然と似た方程式が建築に反映され、美しさが意図せずとも自然とにじみ出ているのかもしれません。
三分一先生の建築からはどこか自然と建築の関係のこれまでにない、建築と庭園を融合したようなあるいは、建築なのか、古くから大地に根付いた自然かをも曖昧にするような、新しい境地にある、建築の新しい歴史を作っていっているようで、世界でご活躍されているお方ののお話を直接耳にできる機会をいただけたこと、大変光栄に思います。

「地球のディテール」と題された、建築と大地、そこに住む人々への三分一先生の思いは、地球のスケールをも超えるような、そんな非常に感銘的なお話を伺えた講演会となりました。

学生のコメント

課題に取り組んだ学生の、講評会と講演会の一日を通した感想です。

「直島という課題敷地を読み解いていく中で、コミュニティの在り方を深く考える機会になりました。また、三分一先生が大切にされている「動く素材」についても、自分たちなりに理解し、荒削りではありますが、設計に生かすことができたと思います。
今までは必要最低限の通風・採光のことしか考えることができていませんでしたが、不変のものであるその土地の動く素材をデザインすることで、人々の変化にも呼応することができるという新たな発見がありました。特に風のデザインでは、向きだけでなく速さ・圧も設計し、視覚だけではなく風を感じることで場を認識できることで、より多様な人々を受け入れる建築になるのだと痛感しました。」(庄野)

「三分一さんの建築は、風・水・太陽の「動く素材」が軸となっており、建物一つ一つにかける思いがとてもあついお方だと感じました。今回直島の設計課題として、三分一さんの考えに基づき、動く素材と座について着目して考えました。その中で動く素材をどう建物として形にしていくかが難しく、その中でも水をどう使うか大変悩みました。講評会での水の三大変化や速度についての話を聞き、模型などを通してスタディを見ると、リサーチがどれだけ大切なことかがよくわかりました。
また、場所がどこであれ土地や風土にあう動く素材を導き出し、設計する段階からRC造の型枠を捨てることがない建築だったり、できるだけ廃棄物を出さずにリレーする街へといった考え方にとても魅力を感じ、”建築は未来への手紙”という言葉には深く考えさせられました。
三分一さんは今、瀬戸内海を拠点として広島を復活した緑と出発したまちへ導かれており、自分も長崎出身で原爆にあったまちの一人として世界に通じ、地球につながるような考えのものとこれから活動していこうと感じました。」(金崎)

おわりに

一日にわたり、設計製図Ⅲの講評会と「地球のディテール」について講演会が行われました。
三分一先生にお越しいただいた中で、生徒たちが設計した成果をじきじきにご指導、評価いただき、また、午後からは講演をうかがえることができ、私たち学生にとって大変貴重な機会となりました。今回、学生のみならず、お越しいただいた建築家の方々にも大変刺激のある一日となったのではないかと思います。
三分一先生から最後にお言葉をいただいたように、地方の魅力を、場所に宿る魅力を見つめなおし、瀬戸内・島根地方で活躍する建築家の方々、学ぶ学生たちと「地球のディテール」となれる建築を目指していきたいと強く思う一日となりました。
 
最後になりますが、ご多忙、遠方の中お越しいただきました三分一博志先生、この機会に際しましてご協力いただきましたJIA中国支部島根地域研修会の皆様、この度は誠にありがとうございました。この場をお借りいたしまして深く感謝申し上げます。

令和5年度 「建築設計製図Ⅲ第2課題」TA 中道泰子