令和4年度 インテリアデザイン講評会・講演会・座談会)講師:UID 前田圭介先生

2023年1月19日、島根大学に前田圭介先生がお越しくださいました。

前田先生が島根大学にいらっしゃるのは初ということで島根建築士会と協賛し、①3年生後期単位である「インテリアデザイン」の最終講評会とともに、②前田先生の講演会「おおらかな場を作り出す建築的強度とは」を同時開催。そして最後に質疑応答の時間も兼ねて、③島根大学千代章一郎教授との対談を踏まえた座談会が行われました。

多くの建築家の方たちに加え、本学の学生にも数多く参加して頂き、非常に刺激的な半日になったのではないかと思います。

以下、各部での細かな様子をお伝えします。

第一部 「インテリアデザイン」講評会(3年後期設計課題「都市の中の家」)

13:00より行われた、「インテリアデザイン」設計課題「都市の家」の最終講評会には、千代ゼミの3年生メンバーから番匠、冨永の2名が参加しました

二人とも、これまでのエスキスと中間発表での前田先生から頂いたアドバイスやご指摘を踏まえ、しっかりと練られた案を持ってきてくれました。

また、当日の第一部である講評会のタイミングで、島根県で活動される建築士の方々が数人お見えになり、前田先生と千代先生、そして建築士の方々に講評をして頂けるという今までにない形での最終講評となりました。

冨永君の作品は「額縁と層を持つ家」。

対象敷地であるL形の狭小地に、あえて斜めの線を通すことでレイヤーを5つ形成し、それらを生活の中での役割を持った「層」として組み込んだ住宅です。

また名前にある通り、この住宅はファサードを「額縁」とし、外部に開いて町と共に生活する場所としての機能も持ち合わせているようです。

細かな部分にもよく気を配って設計されており、また明快な理論の下に出来上がった住宅だという印象を受けました。

以下、本人のコメントです。

「講演会だけで無く、インテリアデザインの講評会から座談会までどの話も興味深くお聞きしました。
全体を通して前田さんのユーモアがあり、真面目に遊ぶような姿勢が印象に残っています。建築家のキャリアも一般的な人とは違い現場を経験していることなども、ユーモアの一因なのかと感じました。
特に印象に残っているのは「構造が建築に秩序を与える」という言葉です。自分のこれまでの考えでは意匠が先行し、それに合う構造は何かと考えていましたが、構造が全体に秩序を与えることで、どんな仕上げ・インテリアを加えても一定の秩序ができるという考えは新しい知見であり大変興味深いと感じました。
今後の新たなプロジェクトに期待し、作品の変化なども含め楽しみたいと感じた講演会でした。」

続いて、番匠さんの作品は「小空間で楽しむ」。

3階建てのボリュームをしており、内部には1Fのカフェとギャラリー、2Fには設計事務所、そして3Fに自らの生活空間を内包した、所謂店舗併用住宅になっています。

番匠さんは設計段階で敷地の特徴として、主に問題点を列挙しており、それらを躯体によってクリアしようという手法で設計を進めていました。

日常生活における様々なシーンを想定して設計されており、日光や風に関しても多くの趣味レーションが行われていました。「自分にとっての住みやすさとは何か」がよく検討されていた印象を受けました。

以下、本人のコメントです。

「間口が狭く、通風や採光の確保が厳しい敷地だたため、住まいとして設計するには非常に難しかったです。しかしながら、似た敷地の住いや町屋建築について深く知ったり、公と私が密接なところでどのような暮らしができるかを考えたりと非常に多くのことを学ぶことができたと思います。また講評会で前田先生や多くの建築家の方からのアドバイスを聞いて、都市の中でしかできない住まいやコミュニティの創造についてもう少し提案できるようになりたいと思いました。」

第二部 「おおらかな場を生み出す建築的強度とは」(講師:前田圭介先生)

14:00からは、前田圭介先生による講演会「おおらかな場を生み出す建築的強度とは」が開講されました。この講演会はJIA中国支部島根地域研修会を兼ねて開講されたため、先ほどの第一部に加え、さらに多くの方が訪れてくださいました。特に学生は最前列の更に前という特等席での聴講が可能であり、熱心に前田先生のお話を聞いている様子でした。

講演会では、前田先生の生い立ちや現在に至るまでの経緯、そしてその時々で何を感じ何を考えていたのかを非常に細かくお話しくださいました。お話の中で、前田先生のオリジンを2つ見つけることができました。

まずは「創造への執念」です。前田先生は大学卒業当初、一度設計の夢を諦めたとおっしゃっていました。しかし何かを作っていたいからという理由で、施工管理のお仕事に就かれます。その中でも自分で左官をしたりコンクリートを打ったりなども行っていたそうで、現在の前田先生の非常にリアルな設計思想に通じる経験だったのだろうと考えることが出来ます。また、前田先生は施工をしながら「自分で作ってやりたい」という気持ちをふつふつと再燃させることになり、現在のUID事務所立ち上げに至ったそうです。「モノづくりをしている時はドキドキワクワクしている」と話されていたように、前田先生は常に何かを生み出し続ける純粋な少年のような気持ちで生きておられるということを強く感じました。

次は「人との繋がり」です。前田先生は設計段階から、人とのコミュニケーションを非常に大事にされています。特に福山市の商店街改修の折のエピソードで如実に表れていました。商店街改修に当たって、何度も商店街内に店を構える店主たちとやり取りを繰り返し、心無い言葉をかけられたこともあったそうです。しかし、それらのやり取りで生まれた言葉や住む人たちの感情を全て受け止め、設計として前田先生は見事に形にされています。つらかったエピソードのように感じると思えば、激しくお施主さんたちと言葉を交わしたエピソードほど、前田先生は楽しそうにお話して下さしました。人と人との強いエネルギーの交換を一番大事にされる、いわば「殴り合いの建築」と表現すればいいのでしょうか。

第三部 座談会 前田圭介(UID)×千代章一郎(島根大学)

講演会の後は、質疑応答をふまえた座談会(前田先生×千代教授)が行われました。

講演会のテーマであった「おおらかな場」の正体について、千代教授の見解や島根建築士会の方々の質問を通して様々議論されていました。設計家としての意見、建築論研究者としての意見、学生目線での質問など、聞いているだけでも非常に楽しめる会話が生まれていたと思います。

思うに、「おおらかな場」とは、「これである」といったふうに指で示せるものでは無く、今までの前田先生の生涯を通した経験が複雑に絡み合った結果ではないかと思います。施工目線でのリアルな架構の作り、現場で作業する人のことを考えた空間の大きさ、そして物理量だけではなく、前田建築によって生まれた空間に住む人々の表情や会話、流れる時間までもが「おおらかな場」の一部であると言えます。

座談会フルバージョンはこちらから視聴頂けます。

さいごに

半日かけて行われた、前田先生による講評会と講演会、座談会は非常に濃い内容のものとなりましたが、同時に満足度も高いものでした。

世界で活躍する前田先生のパワーを肌で感じ、講評を直に頂いた学生や、講演を間近で聞くことができた学生にとってはとても良い刺激になったことと思います。今回をふまえ、設計や研究に限らず、これからの全ての事により一生熱中してほしいと思います。また、島根県の建築家たちも多く参加して頂いたことで、島根県全体が建築活力の溢れる場となることを期待します。

遠い中、わざわざお越しくださいまして貴重なお話をして頂きました前田先生、またこのような貴重な機会を実現するにあたり御協力頂きましたJIA中国支部島根地域研修会ご参加の方々にも、この場をお借り致しまして感謝申し上げます。大変有難うございました。

                                               令和4年度「インテリアデザイン」TA 槇山公喜