令和6年度 建築設計製図Ⅲ第2課題講評会(講師:三分一博志先生)

令和6年7月11日に学部三年生による設計製図Ⅲ第2課題の講評会が行われました。本授業では外部講師として三分一博志先生をお招きしており、最終講評会では島根大学までお越しいただきました。

課題「地域システムの継承(領土の覚醒)」
設計製図Ⅲ第2課題では直島本村地区にある三分一先生設計の「直島ホール」(2015)と同じ場所を敷地として、地域の集会所・運動施設・地域図書館+αの提案を課題としています。
三分一先生による「直島ホール」は数年にわたる現地調査を経て直島本村地区が持つ記憶を継承するものになっています。本課題においても三分一先生が行われているような「地域システムの継承」を課題とし、現地調査を基に直島の歴史や自然環境を含めた場所性を計画案へどのように反映させるかが重要であり難しいポイントでした。
設計は4~5名を1班としたグループにより行われました。課題説明から発表まで6週程度の短期間でしたが、最終講評会では各班の考えが色濃く反映された計画が発表されました。

建築設計製図Ⅲ第2課題講評会

各班の計画概要と三分一先生による講評の一部を紹介します。

A班「わーと」

直島において年々減少する井戸と年々増加するアートに注目し、「水」と「芸術」を融合することによって島民と観光客の交流を促す提案。大きな水盤を囲むように建築ボリュームを配置しつつも水盤を外に滲み出させることによって地域に開かれた集会場の計画でした。
三分一先生による講評
開放的でありながら閉鎖的な不思議さを持つ面白い提案。廊下の機能が単にボリューム同士をつなぐだけで終わらずに町全体の効果を考えている点や水盤の細かい寸法までよく検討されている点が良い。


B班「移×映 人々の創造性を育むアートの場」

かつて城下町であった直島に見られる「鍵曲」によって生まれる人の動きと溜まりに注目し、「鍵曲」の中に芸術作品を点在させることでそれらが
直島に見られる「鍵曲」と芸術作品によって人の動きを活性化させることで提案。
三分一先生による講評
「鍵曲」を如何に最大化させるかを考え抜いた点に面白さがある。「鍵曲」は一見不利に見えたが、人々の足を止めるという町にある効果が敷地にも反映させ、そこから人をどうコントロールするかを検討できている点が良い。


C班「島to島」

江戸時代では海上交通の要所であったという直島の特徴から、敷地内に3つの盛土による「島」をつくり、盛土による「島」で水・風と共に人が誘導され交流を促す提案。
三分一先生による講評
島という着眼点が良い。島という異質なものが町の中で新しい要素として成立させている点が良い。島という着眼点が良いだけにもう一歩何か魅力的なものがあればよりよかった。


D班「交わる×留まる」

直島の伝統芸能である「直島女文楽」の舞台を敷地中央に配置することで交流の中心としながら、その他機能を隣接させることで文化の継承と人々の交流を図った計画。
三分一先生による講評
「直島女文楽」を軸において他の目的で訪れた人も文楽に触れ文化を継承できる点が良い。「直島女文楽」を中心にデザインへより落とし込みができるとよりよかった。


E班「一齣を覆う

人々が行う様々な会話・行動を切り取ったものを「一齣(ひとこまり)」とし、特徴的な草屋根やその下に配置された細々としたボリュームによる風の受け渡しや水の循環と共に「一齣」が活発に行われるよう計画した提案。
三分一先生による講評
形態を決めるうえで環境実験を行っているのが良い。人を説得させるためには実験で得られるような客観的なデータが非常に効果的。敷地周辺のコンテクストの読み込みができていると感じさせる点が良い。


F班「寄り路

敷地内に多数の分棟を配置することによりメインとなる道と多数の路地空間を生み出し、路地により利用者を奥へ誘導することや路地によって細かく分節された空間の多様な使われ方を提案。
三分一先生による講評
敷地を建物ボリュームで区切ることによるメリットを追求した点がこの提案の面白さ。建物の配置計画が機能によってなされた等の説明があると説得力がありより良かった。

学生による質問

各班の講評の後には学生から三分一先生に質問が行われました。当初予定していた時間を超過していましたが、学生の熱意に答えるように三分一先生からも熱いお答えが返ってきました。以下、学生の質問と三分一先生のお答えを紹介します。

Q.設計手法で最も気を付けている点は何か?
A.場所に行って隠れている価値を最大化させること。隠れているが誰もが価値を見出すことのできるものがそこにはあり、それを見つけるために緻密なサーヴェイを必ず行う。

Q.初めてのグループ設計で苦労することが多かった。複数人で設計する際に気を付けることはどのようなことか?
A.「軸」を共有するまで話し合いを深めること。「軸」は「絶対に必要だ」という価値が変わらないものであり、設計を進めても決してぶれない。例えば「形」を「軸」にすると好みが分かれるが、「きれいな川」を「軸」にしたらそれに反発する人はほぼいない。

Q.都市部では「動く素材」が見えにくく感じる。都市部においても「動く素材」は見られるのか?
A.基本的にどこにでも「動く素材」はある。理想は昔を取り戻すことであり、昔は直島でいう風のリレーのような地域の特徴があり、「動く素材」が分かりやすい。広島市内に建てられたおりづるタワー(2016)は都市部における「動く素材」の利用の良い例で、広島市内特有の風を「動く素材」としてルーバーによって操作している。

学生の感想

本課題に取り組んだ学部3年生の感想です。

「三分一先生は、風、水、光などの人間の生活において源となる要素を大切にされていらっしゃいました。私は課題を通じて、その重要性を身をもって理解することができました。特にこれまで、通風を設けるためには開口部を作ることで解決できると考えていました。しかし、この考えでは建物の中でのみ風が止まってしまいます。三分一先生のお話や講評から、風が家から家へと繋がるバトンリレーのように作用していることに気付かされました。土地の上に立つ設計において、その土地の特徴をいかに深く理解するかが大切であり、これはその土地の生活における風、水、光の理解度が重要であることに気付きました。土地の特性を理解し、将来へ繋げるという三分一先生の建築に対する考え方は、今後の私の核として大きな力を与えてくれるはずです。今回の課題で得た新たな課題や大きな気付きは、今後の設計活動に活かしていきたいと考えています。」(中野)

「今回の課題設計では、今まで以上に敷地の場所性や環境、人の動きを意識して設計を進めていきました。三分一先生が軸としている「動く素材」は過去から現在まで続く普遍的なものであるからこそ建築に取り込むことで、これからへとつながる建築になると感じました。また、自然との付き合い方や地球への負荷を減らすことを考えた設計はこれからの時代に必要なことが詰まっており、とても勉強になりました。三分一先生からの講評や初めてのグループ設計を通して、今まで自分の中にはなかった考え方を得ることができる貴重な機会だったと思います。」(大島)

おわりに

朝早くから昼過ぎまで、時間が超過しながらも講評会が行われました。
講評会では短い時間ながら力作が並び、それにこたえるように三分一先生による講評が行われ濃密な時間でした。
課題に取り組んだ3年生によって本課題は第一線で活躍する建築家直々に指導を受けられる貴重な機会であったかと思います。

三分一先生の学生の良い点を伸ばそうとする講評や予定の時間を超過しながらも学生の質問に真摯に答えられる姿は、これからの建築を作っていくであろう学生への期待の表れであり、三分一先生からの「未来の世代に恥ずかしくない建築」を一緒に作っていこうというメッセージのようにも感じられました。講評会を含めた三分一先生のお話は、私たち学生にとって、これからの建築がどうあるべきかを考える濃密で有意義な時間となりました。

最後になりますが、三分一博志先生にはお忙しい中、また遠路はるばるお越しいただきました。そして熱心にご指導いただき最後には時間が超過しお仕事の電話が鳴ってもコメントを続けてくださり貴重な機会を作っていただきました。この場をお借りいたしまして深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

令和6年度 「建築設計製図Ⅲ第2課題」TA 冨永大樹